ギョ

 楳図かずお先生の作品は、まだ、これはあっちの話なのだ、という先入観を持って挑めたから、ああこれは怖い。くわばらくわばら。という風にとれて、半ばその流石な画を楽しむこともできつつ読めたのだが、伊藤潤二氏のこれは。
 まるでもう、あっちこっちに別方向の恐怖が潜んでいる。こうなったらまた、ああなったらまた。そして物語はそれでもただ広がる。どこかで記憶を呼び覚ましておいて、ああそう来るとは!でもやっぱりそうなるとは!の連続。ものすごく速いテンポで読むことができた。総じてこの「ギョ」は気持ち悪い恐怖。
 特別収録の「大黒柱悲話」は、一読すると一笑して何これであるが、深い悲しみに襲われる恐怖。「阿彌殻断層の怪」は、ヒトの暗黒面の恐怖。ラストがとてつもなくヤ。